2025年度東工大数学系院試受験記

2025年度東京工業大学数学系の院試を受験しました。これはその体験記です。

同期によるとても読み応えのある体験記は既にたくさんあります。
できるだけ他の人が書いていないようなことを書きたいと思っています。

院試前後(3月~面接)の流れを時系列順に書こうと思います。

筆者について

  • 東工大数学系4年(ゆえに内部生)
  • 表現論(代数系)の研究室に在籍
  • 同研究室が第一志望
  • 併願先は無し

3月

同期たちによって院試対策会なるものが既に発足していたため、院試の意識はありました。
しかし
Humphreysの本を読むことと遊びに忙しく、特に院試の対策はしていません。

4月

基本的にセミナーの予習とバイトと遊びに多忙。院試の勉強は少ししかしていません。

居住地から大学が遠いため、院試対策会にも顔を出していませんでした*1

ネットに転がっている東工大数学系院試体験記を読んで、そろそろ東工大の過去問↓

www.math.titech.ac.jp

を解かねばと思い、上旬に初めて東工大の過去問(2020年度)を解きました。
午前はかろうじて(=十分長い時間をかけて)解ける問題が2、3存在するのみで、他は手も足も出ず。
午後は全く解けませんでした。

午後の問題にそもそもアタックすることができるだけの知識が足りていないと感じたため、永田「大学院への代数学演習」を購入し、その例題の解答を写経し、知らなかった事実や論法、証明方針を勉強しました。

このころは院試の勉強はほぼ永田「大学院への代数学演習」で、感覚を忘れないよう2週に1年くらいのペースで過去問を解く、という感じです。

過去問は当然時間内には解けないので時間制限を外して解き、解けたらそれをノートに清書するという方法を取りました。つまり2度解答を書くことになりました。
1回目の解答で解けたと思っても2回目を書いているときにミスが発覚したりしたので、これは自分に対して効果があったと思います。

5月

4月に引き続き基本的にセミナーの予習とバイトと遊びに多忙、4月と同様の勉強をしていました。

永田「大学院への代数学演習」の例題の解答を読むだけでもかなり知識がつきました。とくに群論の典型的な議論が習得できたのは良かったです。
例えば本番で使ったものだと、p群の中心は非自明、G/Z(G)が巡回群ならばGはAbel、等です。

この本の例題の解答は、自分には見えていないものを見ながら書かれているように感じるというか、とにかく証明の切れ味がすごくて、読んでるだけでも刺激的で面白かったです。

また必要に応じて雪江「代数学1、2、3」を参照しました。

東工大の午後の代数を解くにあたってはまず知識を蓄えることが必要と感じ、この頃から院試に役立つ代数の命題を見つけたら可能な限り簡略な証明をつけてtexでメモするようにしました。
このメモは試験直前まで更新し、試験当日にも参照することになりました。

5月末までに解いた過去問は5年分くらいです。

6月

6月になってすぐに出願をしました。
志望理由書が面倒でしたが、後で他大の人の話を聞くと東工大の出願はまだ楽な方です。
受験料が3万以上もして目玉が飛び出ました。
出願が面倒だったことと受験料が高いこととなにより自分がやり遂げられる自信が無かったため、併願はしませんでした。
また表現論をやるなら東工大を出る必要はないと考えました。

ちなみに筆者は併願先がなかったことで直前期は相当しんどい思いをしたので受験料が高くても行く気が無くてもとりあえず併願しておくことを薦めます。

6月上旬、中旬は4、5月と同様の勉強をしました。永田「大学院への代数学演習」も現在の東工大で扱われる範囲と難易度の例題は全て目を通しました。

過去問を9年分解いた段階で院試当日までのスケジュールを逆算して考えたところ、今のペースではネットに公開されている東工大の過去問(27年分)を全て解くことは到底不可能であることにようやく気付き(遅い)、たいへん焦りました。

そこで心を入れ替えて1年分を解答&清書まで含めて2日で仕上げるペースで勉強することにしました。

7月

この頃から時間を厳密に計って過去問を解くようになりました。
平成28年度以前は初見でも時間内に少なくとも6割〜満点程度の点数だったように思いますが、28年度以降の近年、特に2022年度からは半分も解けないといった状況でかなり絶望していました。

急いだ甲斐もあり7月中に東工大の過去問27年分は1周しました。

8月

大谷翔平やアーロン・ジャッジやジャンカルロ・スタントンのホームランを見るのが唯一の心の救いでした。

セミナーの院試前最後の発表は筆記試験の9日前でした。

院試の勉強は東工大の過去問が尽きたので、形式が2025年度現在と同様の近年12年分をもう1周と、同時進行で東大のA問題と京大の代数の問題も解きました。

東大は必答問題がかろうじて解け、他のA問題はロクに解けずという状態でした。

京大の代数はオリンピックくらいの周期では解けるものの、基本的には何時間も唸って証明のような怪文書を生成するだけでした。
しかし解答を熟読することで知識と手法を身に着けることができたと思います。

東大と京大について参照させてもらった問題と解答は以下です:

東大:

www.dropbox.com

京大:

github.com

筆記2日前

受験者が99人(受入可能予定人数は24人!)と聞き絶望しました。
少なくとも60人くらい倒さないと院生なれないなんて無理ゲーすぎるよ。併願しなかったことを後悔しました。

筆記前日

これまでに解いた過去問を見て、パッと方針が立つか?ということをチェックしました。

台風が来ていたので、居住地と大学が遠いことを考慮して大学近くの宿に前日入りしました。

筆記当日

99人も受験者がいるのって実際は嘘なんじゃないかと思いましたが、本当に99人分の席が用意されていてビビりました。

試験の出来は以下の通りです:

午前:6割5分程度
  1. (線形代数) (1)〇 (2)〇 (3)〇
  2. (線形代数) (1)ほぼ〇 (2)× 
  3. (位相) (1)〇 (2)〇 (3)〇 (4)〇
  4. (微積) (1)〇 (2)△ (3)×
  5. (微積) (1)△ (2)×
午後:6割5分~7割程度
  1. (環論) (1)〇 (2)△
  2. (Galois理論) 解いてない
  3. (表現論) (1)〇 (2)ほぼ〇 (3)×

代数系なので午後は2.のGalois理論を選択することも可能でしたが、選択しなかった理由は、(1)はいけそうだが(2)以降全く分からなそうだと思ったことと、小問が4つあるため小問あたりの点数が低そうだと思ったからです。

各問題の感想です。

午前の感想
  1. (線形代数) 斎藤「線形代数の世界」で見た同伴行列に関する問題なのでいけました。
  2. (線形代数) (1)が平成31年2.と同様の手法が使えると奇跡的に気づけたが、気付かなかったらオワリでした。微妙に計算ミスをしました。(2)は白紙。
  3. (位相) 近年に比べてめちゃくちゃ簡単でした。
  4. (微積) 逆関数に奇跡的に気づけたことで(2)まで(?)解答できたが、気付かなかったらオワリでした。(3)の反例は思いつかなかったが、終わった後教えてもらったらとても簡単だったので悔しかった。
  5. (微積) (1)の片方の条件だけ出してそれ以外解答してません。後で解答を教えてもらいましたが、これは試験場では自分には無理だったと思います。
午後の感想
  1. (環論) (1)は簡単だが、(2)がわからない。分かってるとこだけ書き出したらそれっぽい解答になってきたが、結論には至らず。
  2. (Galois理論) 解いてないので略。
  3. (表現論) (1)(2)は群論の典型的な議論で攻めることができた。(2)で微妙に議論をミスった。(3)の解答に用いる指標のあたりの知識がごっそり抜け落ちていたため、(3)が解答できませんでした。表現論志望とは思えない出来。指導教員になんと弁解すればよいやら。
英語の感想

ノー勉でしたが、辞書を持っていけたことにより解答は難しくありませんでした。
英語がほぼ分からなくても計算で解答できる問題がありました。

 

試験後、院試対策会というものに初めて顔を出し、解き直しをしました。
賢い解き方、自分のミス、解いた/解かなかった問題の難易度がわかりスリリングでした。

同期の皆さんに感謝です。

筆記と面接の中日(筆記翌日かつ面接前日)

この日も同期と解答の作成に取り組みました。とはいってもほぼ教えてもらっただけですが。

筆記試験の合格者発表があり、無事合格していました。
しかし受験者の約半分以上が落とされていて、中には内部生の同期もいたため、たいへん肝を冷やしました。

ちなみに、東工大では毎年筆記試験で優秀な成績だった層が面接の午前に、筆記があまり振るわなかった層が午後に呼ばれるという通説があります。

しかし今年に関しては、よくわかりません。*2

面接当日

筆者の面接は午後だったので、午後の面接のメンバーと朝から集まって喋っていました。

直前まで待合室で解き直した解答を頭に入れることに精を出していました。

順番が来ると1人ずつ先生が待合室まで呼びに来る方式だったのですが、呼びに来た先生は知り合いの先生で、面接室まで連れていかれる途中「髪色の元気がいいねえ~笑」と言われました(僕は当時赤髪で、そのまま面接に行きました)。
さすがにマズかったかと思い「黒にするべきだったかもしれません」と弁解したところ、その先生は笑いながら「いや、そういうのは関係ないから」と言われました。
ちなみにその先生は草履に半袖短パンでした。

受験者の格好は2025年度東工大数学系代数系においてはなんら問題では無かったようです。おそらくこれまでもこれからもそうだと思います。

当の面接では解き直しについては一切触れられず、10分程度で終わりました。
解き直し以外の質問にうまく答えられなかったため、これは落ちたかもしれないと思っていました。

答えられんやった、こら落ちたな、という思いと、でも解き直しをさせずに落とすことないやろ、という思いが合格発表までずっとグルグルしていました。

合格発表



無事合格していました。ありがとうございました。

まとめ

大事だった/ありがたかったと思うことをまとめます。

  • 過去問演習
    院試勉強の軸でした。
  • 線形代数の進んだ理解
    教養の線形代数だけではなく、対角化可能/不可能の必要十分条件、最小多項式、固有多項式、Jordan標準形、テンソル積やそれぞれの関係についてきちんと理解しておくことが大事だと感じました。
  • 午後の代数の典型的な議論とテクニック
    前述したように、院試に役立つ代数の命題をtexでまとめていましたが、これは自分にとって良かったように感じます。
    また代数分野のいわゆる「典型的な議論」は永田「大学院への代数学演習」の例題の解答や雪江「代数学1、2、3」などが参考になりました。
  • 周りの方々
    同期の方々をはじめ、寮の人々、友人、家族の理解と協力により無事院試を終えられました。
    とくに解答作成に関わっていた同期の方々と、発狂寸前の筆記前日に通話してくれた友人には特別な感謝の気持ちがあります。ありがとうございます。
  • 運動
    これまで書いていませんでしたが、自分には(野球の)素振りと筋トレと週1で10km走る習慣があるため、それを院試前も同様に継続していました。
    これは身体と精神のリフレッシュにたいへん良かったと思います。
    とくに本番2日前などは緊張で勉強が手につかず、ずっとバットを振っていました。

以上です。どなたかの参考になれば嬉しいです。

意見・要望・質問などあればX(@_kawato_)までお気軽にdmを下さい。

同期の体験記

note.com

na2cooh-2.hatenablog.com

note.com

trap.jp

kotakotaaaa.hatenablog.com

note.com

senjirosenjiro.hatenablog.com

*1:しかしdiscordサーバーには入れてもらっており、同期が作成した解答は見られるという状況でした。解答を作成していないのに解答は見るという良いとこどりのズルを働いていました。ごめんなさい&ありがとうございます。
ちなみに院試対策会に顔を出したのは院試当日の解き直し会が初めてでした。全く不参加だった僕を試験当日からでも受け入れてくれた同期たちの懐の深さには頭が下がる思いです。この場を借りてお礼を申し上げます。

*2:9/11 同期の指摘によって訂正しました。その同期によれば「私のリサーチによると代数は面接午前組しか落とされていない.幾何は午前午後とも存在,解析は落ちてる人がいなかった.」とのことです。訂正に感謝します。